はじめに
「アカデミー賞に輝いた作品がその年で最も優れた作品とは限らない」
この事実は少しでもアカデミー賞について詳しければ、知っているかもしれません。
アカデミー賞において、投票するのはアカデミー会員(後述)。つまり人間。
100%客観的に映画の完成度をみるのは非常に難しいのです。
だからアカデミー作品賞とった作品が最も優れた作品というわけではないし、もっと言えばノミネートされなかったからといって駄作というわけでは全くないのです。
ではなぜアカデミー賞を追うのか。
それは、ハリウッドが、そして世界が今何を感じているのか、大きく反映している賞だからです。
そして、なんだかんだ腐っても世界最高峰の映画の賞だから。その価値のある長い歴史を持っているわけです。
そんな時代とともに刻まれてきたオスカーは、どのように予想するのでしょうか。
今日は私なりの方法をお伝えしようと思います。
前提
アカデミー会員とは
アカデミー会員は、ハリウッドに貢献する俳優、監督、プロデューサー、撮影監督...などなどからなります。
つまり、アカデミー賞は映画を作るプロ達が同業者を選ぶという身内の賞です。
つい数年前に「白すぎるオスカー」が問題となり、アカデミー会員の構成を大きく変える改革が行われました。
具体的には、ほとんどが白人男性だったメンバーを見直し、有色人種や女性、若い人たちを次々と入れています。
今、オスカーが変わろうとしている理由とも言えるかもしれません。
エントリー条件
主要部門にエントリーするための条件としては(長編)、
「前年の1月〜12月にロサンゼルス地区で、1週間以上一般有料公開された40分以上の長編作品」
という条件があります。(その他細かい規定あり)
※ただし第93回アカデミー賞に関しては、コロナウイルスの影響を受け、配信等の劇場公開を諦めた作品も対象になるようです。
予想に重要な要素
前哨戦
アカデミー賞を予想する上で必要なものは、前哨戦結果です。
10,11月ごろから様々な映画賞が開催され、アカデミー賞が行われるまで様々な賞レースが展開されます。
今回は賞をいくつかに分類して紹介します。
映画祭
アカデミー賞と大きく性質が異なるものが各映画祭です。
条件を満たす映画全てを対象としているアカデミー賞とは異なり、映画祭は出品された映画の中から審査が行われます。
しかしながら与える影響は0ではなく、ここで注目された作品が賞レースに絡むことも多々あります。
有名どころの映画祭について説明していきます。
サンダンス映画祭・・・毎年1月ごろに行われる映画祭です。開催時期が年の初めということでやや不利ですが、ここで話題を呼んだ作品がうまくその熱を一般公開までキープできた場合、ノミネートされる可能性は大いにあります。『リトル・ミス・サンシャイン』『プレシャス』『6才のボクが、大人になるまで。』『セッション』などがその例です。
ベルリン国際映画祭・・・毎年2月ごろに行われる映画祭です。基本はアカデミー賞との関連性は薄いとみて良いでしょう。(もちろんたまに絡むことはありますが)
カンヌ国際映画祭・・・毎年5月ごろに行われる映画祭です。長年、アカデミー賞とカンヌは大きく異なる部分が多かったのですが、どうやら両者の壁はなくなってきているように思います。というのも近年、パルム・ドールやグランプリの作品が次々とアカデミー賞に絡んでいるからです。『万引き家族』『サウルの息子』などの外国語映画賞をはじめとして『パラサイト 半地下の家族』『ブラック・クランズマン』『愛、アムール』『ツリー・オブ・ライフ』など主要部門にも参戦する作品も多くなってきました。
ヴェネツィア国際映画祭・・・毎年8、9月ごろに行われる映画祭です。こちらもアカデミー賞にとって重要度を増しているような気がします。最高賞「金獅子賞」に選ばれた、『シェイプ・オブ・ウォーター』『ROMA ローマ』『ジョーカー』などがその例です。
トロント国際映画祭・・・毎年9月ごろに行われる映画祭です。アカデミー賞を目指す多くの映画がこの映画祭に出品されるため、賞レース前の流れをみるのには最適の映画祭です。ノン・コンペティションの映画祭であるので、観客賞というのが代わりに設けられています。この観客賞とその次点(2作品)の計3作品が発表され、これらを中心に賞レースの流れを占うことができます。
批評家協会賞
賞レースの先陣を切って次々と発表される賞は、批評家協会による賞です。
その名の通り、批評家、つまり映画を観るプロ達による賞です。
多くの地域の批評家協会賞が存在し、ニューヨーク映画批評家協会賞、シカゴ映画批評家協会賞などが存在します。
その中でも最大の賞が、予想する上で重要な重要三賞の一つ、放送映画批評家協会(Critics' Choice Awards)です。
ゴールデン・グローブ賞
ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)による賞です。
つまり、外国人記者による賞なので、映画の観るプロでも作るプロでもない方々による賞です。
特徴としては、どちらかというと大衆よりで、スターを好む傾向にあります。また、外国人記者達なので、外国人にもある程度寛容な印象です。
アカデミー賞とは選ぶ人の性質が違い、また先述の通り良くも悪くも大衆よりなので、あまりアカデミー賞とは合致度は高くありません。
しかしながら大きな賞であることは間違いなく、アカデミー会員らの気持ちを揺さぶるには十分な間接的影響力を持つ賞と言えます。
そのため、予想屋としては重要三賞の一つとして認識されることが多いです。
(※「大衆受け」「批評家受け」っていう言葉、人それぞれ価値観が違う中では適切なのかと思う節もあるけれど、大きな視点から見るとやっぱり批評家に受ける作風とかっていうのはあるので、予想の際にはよく使う言葉です。)
組合賞
実際に映画を作るプロ達による賞(俳優、プロデューサー、監督...)です。
例えば、俳優が俳優を選ぶSAGや監督が監督を選ぶDGAなどが存在します。
つまり、アカデミー会員と被っている割合が高く、最も直接的影響力を持つ賞としてアカデミー賞予想屋からは最も注目されています。
具体的には、
全米製作者組合賞(PGA)(作品賞の参考になる賞)
全米俳優組合賞(SAG)
全米監督組合賞(DGA)
全米脚本家組合賞(WGA)
全米撮影監督組合賞(ASC)...などなど
が開催されています。
それぞれの部門の予想に最も参考になる賞です。
英国アカデミー賞
イギリスのアカデミー賞です。
基本的にイギリス映画や、イギリス人俳優らが強い傾向にあります。
影響力はそんなに大きくはない印象ですが、「オスカーでサプライズ候補」や「まさかの候補もれ」が起こるときは、英国アカデミー賞でその前兆が見られることも多々あります。
オスカーの傾向
アカデミー賞には傾向というものがあり、受賞しやすいもの、そうでないものなどが存在します。
この傾向は年々変わっていくものなので(というかその時代その時代が影響してくるのはこの部分)、あくまでも参考程度にしながら予想を立てていきます。
有利な映画
完成度の高い作品が並ぶ中で、そこで受賞する作品の特徴とは?
これは一言では表現しづらいけれど、その年のテーマに沿った映画は評価されやすいです。
例えば、白すぎるオスカーが問題となった後は人種を取り扱った作品が評価されたり、女性がテーマの年には女性が主人公の映画が多く受賞したり...
とは言っても、そのテーマ扱えばノミネートされるなんて甘いものではないのですが笑
あとは、公開時期でしょうか。
先述の通り、1−12月の作品を対象としていますが、やっぱり年の初めや夏の映画より、10-12月あたりの年末に公開された作品の方がアカデミー賞にも近く、印象にも残っていますよね。
そういうこともあって、アカデミー賞狙いの作品は年末公開のものが多いのです。
もちろん例外もありますが...
不利な映画
- 公開時期が早すぎるもの。(年始や夏公開映画)
- 有色人種・女性を主人公としたもの。(最近は変わりつつありものの、ハリウッドはまだまだ白人男性社会)
- 娯楽性が高いもの。ホラーやコメディー、アメコミやアクション映画など。
- 小品すぎるもの。
- 若い子が主人公の映画。(老会員は若い人をすぐには認めない傾向あり?)
- アニメーションやドキュメンタリー(アニメーションで作品賞に候補入りしたのは、『美女と野獣』『カールじいさんの空飛ぶ家』『トイ・ストーリー3』のみ)
- 配信映画(今後変わる可能性は大いにあり)...etc.
例えば、ジム・キャリーやアダム・サンドラーはどんなに良い演技しても冷遇され気味。(スティーヴ・カレルやエディ・マーフィ、メリッサ・マッカーシーなどの例外あり)
若い俳優はノミネートされても即受賞することはあまりない。(子役がパッととることはたまにある。)
アニメーションなども、実写に比べるとやっぱり不利な要素が非常に強い。(長編アニメーション賞ができてから、よりそちらに票が流れてしまっている可能性)
などなど...
ただ、『ブラックパンサー』が『ダークナイト』や『LOGAN ローガン』、『ワンダーウーマン』でも成し遂げられなかった作品賞にノミネートされたり、有色人種の割合が増えてきたり、『パラサイト 半地下の家族』が外国語映画初の作品賞に輝いたりと、アカデミー賞は常に変わっています。
それもアカデミー賞の醍醐味なのかもしれません。
ノミネートしておきたい3部門
ノミネート発表後、作品賞受賞の予想に関しては以下の3つの賞にノミネートされているかにも注目します。
監督賞
作品は監督のものと言っても過言ではないほど監督というのは映画にとって大事。
それは当たり前のこととして、データとしても監督賞と作品賞が一致することが多いのも事実です。(今までで約70%の合致率)
ただし、ここ最近『グリーンブック』『ムーンライト』『スポットライト 世紀のスクープ』 などが監督賞を受賞せずに作品賞を受賞していて、一概には言えなくなってきました。
とは言え、作品賞受賞のためには監督賞に少なくともノミネートされることが必要だと考えられます。
今までの長い歴史で、監督賞のノミネートなしに作品賞を受賞した作品は、
『つばさ』(第一回)、『グランド・ホテル』(第5回)、『ドライビング Miss デイジー』(第62回)、『アルゴ』(第85回)、『グリーンブック』(第91回)
の5作品のみです。
脚本賞・脚色賞
作品のストーリー、つまり脚本の出来も作品賞を与えるのにおいて重要です。
ちなみに、
脚本賞・・・オリジナル作品
脚色賞・・・原作などが存在するもの
です。
しかしこの分類は結構曖昧で、「えっ、なんで?」というのもたまに見かけます笑
編集賞
これはあまり知られていないことですが、編集賞へノミネートされることは作品賞受賞に関しては非常に重要なことです。
編集の仕方によって映画の与える印象がガラッと変わるのはもちろん、データから見ても編集賞にノミネートされずに作品賞をとることは非常に稀です。(必ずしも編集賞を受賞することは重要ではない。)
2000年代での例外は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のみです。
本命だった『ROMA ローマ』や『1917 命をかけた伝令』は編集賞候補から漏れ、最終的に作品賞を受賞することはできませんでした。
最後に
アカデミー賞は全てではない。
でも、しっかりその時代にアメリカ、世界が感じていることと照らし合わせていけば、オスカーが単なる賞ではないことはわかると思います。(そして結局アカデミー作品賞は歴史に名を刻まれますし)
アカデミー賞は噛めば噛むほど味わい深いものだと私は思います。
私はアカデミー賞を追いかけてから、一段と映画に詳しくなりました。
知識量で映画の好き嫌いが決まるなんて全く思ってはないけど、随分映画の見方が変わって成長したなと感じるのは確かです。
これが私のアカデミー賞予想の仕方(の一部)です。
ぜひ参考になればと思います。それではまた次回☆