第96回アカデミー賞受賞予想
作品賞
今年の作品賞、圧倒的に強い作品が一つ。それが『オッペンハイマー』です。全米俳優組合賞(SAG)、全米製作者組合賞(PGA)、Critics' Choiceなど重要賞で総ナメ。まさに去年のエブエブ並みの強さ。なおかつエブエブが受賞できなかったゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞(BAFTA)も制覇しており、敵なし。ちょっと対抗しうる作品が見当たらないのが正直なところです。
あえて対抗を探すならどれでしょうか。監督賞・主演女優賞などを落とし、逆に話題となっている『バービー』?ゴールデングローブ賞のコメディ部門で作品賞受賞した『哀れなるものたち』?フランス映画ながら監督・編集でも顔を出した『落下の解剖学』?マーティン・スコセッシの渾身の一作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』?上手くいけば主演男優賞や脚本賞も狙える位置にいる『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』?どれも『オッペンハイマー』を敗るほどの勢いは感じません。
『アメリカン・フィクション』『マエストロ:その音楽と愛と』『パスト・ライブス 再会』『関心領域』の逆転の可能性もほぼ0に近く、監督・編集・主演男優・助演男優などを取る可能性がある『オッペンハイマー』に死角はなし、と考えるのが妥当でしょう。
監督賞
- ジャスティーヌ・トリエ『落下の解剖学』
- マーティン・スコセッシ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
- クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』
- ヨルゴス・ランティモス『哀れなるものたち』
- ジョナサン・グレイザー『関心領域』
さぁ監督賞と同じく、こちらも『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーラン一択でしょう。むしろこれ以上コメントすることがないくらいです。映画ファンからも、そうでない人からも愛されるクリストファー・ノーランが遂にオスカーを受賞するのが楽しみですね。
彼の前では、巨匠マーティン・スコセッシも、鬼才ヨルゴス・ランティモスも、外国語映画を見事作品賞に送り出したジャスティーヌ・トリエ、ジョナサン・グレイザーも歯が立たないでしょう。
主演女優賞
今年の主演女優賞は、一騎打ち状態。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーンと、『哀れなるものたち』のエマ・ストーンが熾烈な争いを繰り広げています。ゴールデングローブでは部門が分かれていたのでどちらも受賞、Critics Choiceと英国アカデミー賞(BAFTA)はエマ・ストーンが受賞し一歩リードかと思われましたが、全米俳優組合賞(SAG)でリリー・グラッドストーンが受賞し、完全な一騎打ちに。
本当にどちらに転ぶかわからなすぎて予想が難しいのですか、接戦の時は、テレビで放送された最後の賞が最も影響力が強いというのが定石。今年はSAGが最後に開催。近年の多様性の観点からも、SAGを受賞したリリー・グラッドストーンがとるのではと予想します。どちらも素晴らしい演技でしたけどね!
主演男優賞
- ブラッドリー・クーパー『マエストロ:その音楽と愛と』
- コールマン・ドミンゴ『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』
- ポール・ジアマッティ『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
- キリアン・マーフィ『オッペンハイマー』
- ジェフリー・ライト『アメリカン・フィクション』
こちらも元々は一騎打ちでした。もちろん一時期は『マエストロ:その音楽と愛と』のブラッドリー・クーパーが取る可能性も囁かれていましたが、おそらく彼は今回も受賞は難しそう。そう、『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』のポール・ジアマッティと『オッペンハイマー』のキリアン・マーフィがしばらく激しい戦いを繰り広げていました。
しかしながら超重要賞である全米俳優組合賞(SAG)、英国アカデミー賞(BAFTA)の両方を制したキリアン・マーフィが一気にリード。今年の本命作品で、しかも実在の人物を演じているというのは大きな強みです。ポール・ジアマッティの長年の功績への功労賞もあり得るかと思いますが、ここは今年の主役キリアン・マーフィを予想します。
助演女優賞
助演女優賞は『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』のダヴァイン・ジョイ・ランドルフで決まりでしょう。全米俳優組合賞(SAG)、Critics' Choice、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞(BAFTA)やその他賞もほぼ全部総ナメ。彼女の受賞はほぼ確実です。
助演男優賞
- スターリング・K・ブラウン『アメリカン・フィクション』
- ロバート・デ・ニーロ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
- ロバート・ダウニー・Jr『オッペンハイマー』
- ライアン・ゴズリング『バービー』
- マーク・ラファロ『哀れなるものたち』
助演男優賞も助演女優賞と同じく、一人が強い状態。『オッペンハイマー』のロバート・ダウニー・Jrが受賞するでしょう。長年にわたり映画界で活躍、一時期の低迷期を乗り越えアイアンマンとして復活。候補経験もすでにあり、作品は今年の主役。死角がありません。
脚本賞
他の賞では『バービー』が脚本賞にノミネートされていたのですが、『バービー』が脚色賞に移行した今、受賞は『落下の解剖学』になるでしょう。重要賞をかっさらっているのも大きな強みです。よく一部のシーンがXやInstagramでもフィーチャーされてましたし。
一定の人気のある『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』『パスト・ライブス 再会』もあり得ますが、ちょっと難しいかな?
脚色賞
『バービー』がこちらに移行してきて若干難しいこの部門。しかし、英国アカデミー賞(BAFTA)を受賞している『アメリカン・フィクション』が受賞すると予想します。新しくも重要な角度から描いた物語ということで、とても素晴らしい作品でした。
作品パワーに引っ張られて『オッペンハイマー』が受賞する可能性もあるのが、面白いところ。注目部門の一つです。
撮影賞
ホイテ・ヴァン・ホイテマの2度目のノミネートにして、初受賞に大手。『オッペンハイマー』に決まり。
編集賞
こちらも『オッペンハイマー』に決まり。各批評家賞や、英国アカデミー賞(BAFTA)、全米映画編集監督組合賞を制しています。
美術賞
これは本当に予想が難しい部門。『バービー』と『哀れなるものたち』の完全一騎打ち状態。Critics Choiceを『バービー』、英国アカデミー賞(BAFTA)を『哀れなるものたち』が受賞。予想が難しいですが、ここは全米美術監督組合賞のファンタジー部門を受賞した『哀れなるものたち』を予想。どちらも素晴らしいんだけども。
衣装デザイン賞
美術賞と並んで、非常に予想が難しい部門。そう、『バービー』と『哀れなるものたち』がまたもや一騎打ち。全米衣装デザイナー組合賞はピリオド部門と、ファンタジー部門でそれぞれ受賞しています。
難しいですが、今年皆がバービーやケンの衣装を装って映画館に向かったのは、映画史に残る一大イベントだったのを思い出すと『バービー』かな、と予想します。『バービー』の作品パワーが下降中なのが気がかりですが...。
メイクアップ&ヘアスタイリング賞
この部門は、絶対的なフロントランナーはいませんが、実物の人物で、メイクが評価されている、カズ・ヒロさんが手がけた『マエストロ:その音楽と愛と』を予想。
音響賞
- The Creator『ザ・クリエイター 創世者』
- Maestro『マエストロ:その音楽と愛と』
- Mission: Impossible: Dead Reckoning Part One『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』
- Oppenheimer『オッペンハイマー』
- The Zone of Interest『関心領域』
音響賞も『オッペンハイマー』で決まり。英国アカデミー賞(BAFTA)を制した『関心領域』の線も捨て切れませんが。
視覚効果賞
- The Creator『ザ・クリエイター 創世者』
- Godzilla Minus One『ゴジラ-1.0』
- Guardians of the Galaxy Vol. 3『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
- Mission: Impossible: Dead Reckoning Part One『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』
- Napoleon『ナポレオン』
またもや超絶予想が難しい部門。『ザ・クリエイター 創世者』か、『ゴジラ-1.0』か、『ナポレオン』か。特に『ザ・クリエイター 創世者』と『ゴジラ-1.0』が最も可能性が高そうです。
実はあまり前哨戦で活躍していない『ゴジラ -1.0』。ノミネートされてないこともほとんどで、その場合は『ザ・クリエイター 創世者』などが受賞しています。しかし、アメリカでの興行成績や、評価、そして一番直前に盛り上がりを見せたのが『ゴジラ -1.0』だと考えると、『ゴジラ -1.0』に投票したくなるのが普通じゃないでしょうか。
作曲賞
- American Fiction『アメリカン・フィクション』
- Indiana Jones and the Dial of Destiny『インディ・ジョーンズ と運命のダイヤル』
- Killers of the Flower Moon『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
- Oppenheimer『オッペンハイマー』
- Poor Things『哀れなるものたち』
こちらはルドウィグ・ゴランソンの『オッペンハイマー』が受賞するでしょう。
歌曲賞
これは『バービー』同士の戦い。"I'm Just Ken"か、"What Was I Made For?"か。どちらもバービーの中で重要な立ち位置の作品。ユーモアたっぷりの"I'm Just Ken"がとってほしい気持ちもありますが、グラミー賞を受賞した"What Was I Made For?"を予想。ビリー・アイリッシュ、既に受賞済ですが、やっぱり有名ですし。
長編アニメーション賞
- The Boy and the Heron『君たちはどう生きるか』
- Elemental『マイ・エレメント』
- Nimona『ニモーナ』
- Robot Dreams『ロボット・ドリームズ』
- Spider-Man: Across the Spider-Verse『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
こちらも熾烈な戦いを繰り広げる2作が。日本の『君たちはどう生きるか』か、アニメーション業界に革命をもたらす『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』か。ほとんどの賞では、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が総ナメだったのですが、重要なゴールデングローブ賞と、英国アカデミー賞(BAFTA)では、『君たちはどう生きるか』が受賞。
ただし、やっぱり組合賞関連や、アニー賞で『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が強いのを見ると、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が受賞するのでは、と思っています。
国際長編映画賞
- Io capitano(イタリア)
- Perfect Days『PERFECT DAYS』(日本)
- Society of the Snow『雪山の絆』(スペイン)
- The Teachers' Lounge『ありふれた教室』(ドイツ)
- The Zone of Interest『関心領域』(イギリス)
作品賞にもノミネートされている『関心領域』がほぼロック。
長編ドキュメンタリー賞
『Four Daughters』の可能性も捨て切れませんが、『実録 マリウポリの20日間』が前哨戦でも強く、受賞するでしょう。
短編映画賞
- The After『彼方に』
- Invincible
- Knight of Fortune
- Red, White and Blue
- The Wonderful Story of Henry Sugar『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』
短編アニメーション賞
- Letter to a Pig
- Ninety-Five Senses
- Our Uniform
- Pachyderme
- War Is Over! Inspired by the Music of John & Yoko
短編ドキュメンタリー賞
- The ABCs of Book Banning
- The Barber of Little Rock
- Island in Between
- The Last Repair Shop『ラスト・リペア・ショップ』
- Nai Nai & Wài Pó『世界の人々:ふたりのおばあちゃん』